英検1級・TOEIC900点でも英会話は苦手

英検1級TOEIC900点(ベスト955)、苦手の英会話をNHK語学で学習中。

エンジョイ・シンプル・イングリッシュ日本語訳『鼻』

 

 

 

 

【鼻 第1話】

 

昔、宇治というところに、(禅智)内供という高僧がおりました。誰もが内供を知っていました。実際には、誰もが内供の鼻のことを知っていました。内供の鼻はとても長く、あごに届くほどでした。まるで長くて細いソーセージが内供の顔にぶらさがっているように見えました。

内供は50才を少しすぎており、長い間、自分の鼻を嫌っていました。気にしていないふりをよそおっていましたが、実はとても気にしていました。「鼻」という言葉さえ聞きたくありませんでした。

 

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内供が自分の鼻を嫌う理由は二つありました。

第一に、実際に困ることがあったのです。鼻が食事のじゃまになっていました。食事中、若い小僧が長い板で内供の鼻を支えていなければなりませんでした。これは簡単なことではありませんでした。

 

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あるとき内供の食事中に小僧がくしゃみをしてしまい、内供の鼻は熱いお粥が入ったお椀の中に落ちてしまいました。この話は京都じゅうに知れわたりました。

内供が自分の鼻を嫌っていたもう一つの理由は、自尊心からくるものでした。町の誰もが内供の鼻の話をします。

「あの鼻では、誰も結婚するものがおらんだろう」

「その通りだ。鼻のせいで僧侶になったと聞いたよ」

僧侶は結婚することができません。ですから、内供は妻を見つける心配をしなくてよかったのです。それでも、内供は自分の鼻が話題にされるのを快く思っていませんでした。

それで内供はいつも鼻が短く見える方法を見つけようとしていました。

 

一人で鏡の前に座っていろいろ試してみたものでした。左を向いたり、右を向いたり。顔をどちらに向けたら鼻が短く見えるか知りたかったのです。でも、いつもどちらも同じでした。

 

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次に、内供は両手であごを隠そうとしました。これもうまくいきませんでした。また、鼻が短く見えることを願って、長いこと鏡をのぞき込んでみました。でも、もちろんそんなことは起こりませんでした。

ですから、毎回内供は鏡を片づけて、祈り始めます。結局のところ、内供は僧侶なのでした。

 

僧侶は、見かけを気にしてはいけないものですが、内供は気にしていました。内供は他の人の鼻をよく見ました。同じような鼻を持った人を見つけたかったのです。自分一人ではないと思いたかったのです。変わった鼻は見ましたが、長い鼻はありませんでした。

内供は外国の仏教の書物を見てみました。外国人でさえ、内供のような鼻の持ち主はいませんでした。長い耳の持ち主はいましたが、長い鼻はいませんでした。

 

鏡をのぞき込んでも何も変わらず、苦しみをわかってくれる人もいませんでした。内供は鼻を短くしようと試しました。何でもやってみました。漢方薬をのんだり、ネズミの小便を鼻にかけたりしました。しかし、何をやっても鼻は短くなりませんでした。

 

そして、ある秋に、小僧が京都からいい知らせを持ち帰りました。医者が鼻を短くする方法を教えてくれたのです。

 (つづく)

 

みなさんはこのお話は好きですか? 私は、なんとも言えないんですよね…。深いお話ではあるんですが…。なかなか日本語訳にとりかかれませんでした。でも、ちゃんと最終話まで投稿します!

 

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【鼻 第2話】

 

内供は長い鼻を短くする新しい方法を聞いたとき、すぐにでも試してみたいと思いました。しかし、内供はまったく興味がないそぶりをしました。代わりにこんなことを言い始めました。

「私が食事をするたびに、鼻を支えているのは面倒なことだろうね。さぞかしたいへんだろうに」

内供はこうも言いました。

「私と私の鼻の世話をしてもらってすまないねえ」

 

内供は、若い小僧たちが鼻を短くする治療を受けさせようとするのを待っていました。小僧たちは内供の考えがよくわかっていたので、何度も何度も試してみるように勧めました。そしてついに内供は首を縦に振りました。

 

新しい方法というのはまったく簡単なものでした。鼻をゆでで、踏みつけるのです。

 

小僧がバケツに熱いお湯を汲んできました。お湯はとても熱いので、内供は顔をやけどしてしまうかもしれません。そこで小僧たちは木の盆に穴をあけて、それをバケツの上に置きました。内供は鼻をその穴に通し、熱い湯に浸けました。幸いなことに、鼻は痛くありませんでした。

 

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しばらくして小僧が言いました。

「もうじゅうぶんゆであがったでしょう」

 

内供はひそかにほくそ笑んで、これを聞いていました。鼻をゆでるなんて誰が想像したでしょう! 内供の鼻は熱いお湯でもなんともありませんでしたが、たいへんかゆくなりました。まるでノミに刺されたようでした。

 

次に、小僧は内供のゆであがった鼻を踏みつけ始めました。小僧は両足で踏みました。内供は床に横たわり、小僧の両足が何度も何度も上下に動く様子を眺めていました。

 

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小僧は尋ねました。

「和尚さま、痛いですか? お医者様は強く踏むようにと言っておりましたが」

内供は首を横に振って「痛くない」と言いたかったのですが、鼻を踏みつけられている状態で首を横に振るのはむずかしいことです。そこで内供は

「いいや、痛くはないよ」

と言いました。

 

本当に痛くはありませんでした。実のところ、とても気持ちよかったのです。とにかく鼻がかゆかったので。小僧は鼻を踏み続けました。すると小さなこぶのようなものが内供の鼻にあらわれました。小僧は言いました。

「ああ、お医者様が言っていました。このこぶを取り除くようにと」

 

内供は口を閉じたままでした。小僧は内供のために鼻を短くしようとあれこれやってくれました。それでも、自分の鼻が肉片のように扱われていることは気持ちのいいことではありませんでした。ですから、内供は手術でも受けているかのように、小僧がこぶを取り除くのを見ていました。

 

そして小僧は言いました。

「お医者様はもう一度鼻をゆでるようにと言っていました」

内供は不満そうでしたが、そうすることにしました。小僧たちは再び内供の鼻を熱い湯に浸け、しばらくゆでました。そして鼻を取り出してみると…

(つづく)

 

「すぐにでも試してみたいと思いました。しかし、内供はまったく興味がないそぶりをしました」

人の心はめんどうくさい。コンプレックスがあると素直になれない。来週は、ドロドロです…。

 

 

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【鼻 第3話】

 

内供は鏡を見ました。長い鼻は短くなっていました。以前はあごに届いていた鼻が、今では唇の上の方におさまっています。

これで内供を笑う者はいなくなるでしょう。内供は鏡に向かってうれしそうに微笑みました。鏡の中の内供も微笑み返しました。

 

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しかし、内供は心の底から幸せだったわけではありません。

今度は、また鼻が長くなるのではとおびえていました。そこで内供はつねに鼻を触っていました。お経をあげていても、食事をしていても、時間さえあれば鼻を触っていました。

しかし、鼻は短いままでした。内供はたいへんうれしくなりました。鼻はとうとう短くなったのです。困難から解放された気持ちになりました。

 

しかし、数日後、おどろくべきことを発見しました。内供が出かけると、人々はこれまで以上に内供をじろじろ見ます。おかしな顔をして見るのです。内供と話をしていると、内供の短くなった鼻ばかり見ているのです。

内供の鼻をお粥の椀に落とした小僧でさえ、下を向いて笑いをかくそうとしていました。しかし、若い小僧は笑いをうまく隠すことができません。内供は小僧の笑い声を聞いてしまいました。

他の小僧たちも、内供の話を聞いているものの、内供がいなくなると笑い出すのでした。このことは一度だけでなく、何度もありました。

 

初めのうち、内供は自分の顔が変わってしまったからだと思っていました。鼻が短くなったので、他人から見たらおかしいにちがいないと。

 

しかし、どうやらそうではないようです。内供を見る目も、鼻が長かったころとちがうのです。日々の務めの中で内供は考えました。

「なぜだろう。昔はあんな風に笑われなかったものだが」

 

内供は仏像の絵を見て、長いこと考えこみました。

まだ鼻が長かった4,5日前のことを思い出しました。まるで貧しい者が、豊かだった昔を思い出しているかのようでした。内供は昔をなつかしみ、悲しくなりました。

内供は全くわかっていませんでした。どうして以前より笑われるようになったのか。残念なことに、内供はこのことが理解できるほど聡明ではありませんでした。

 

人間は心の奥底に、正反対の感情を持っています。かわいそうな人を見かけると、その人をあわれみます。

しかし、その人がうまく困難を切り抜けて幸せになると、今度はおもしろくないのです。

極端な言い方をすれば、その人がまた不幸になってほしいと願うのです。そのような感情が大きくなると、相手が自分の敵であるかのように思えてしまいます。

人間とは、ときに理解しがたいものです。

 

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内供はこういうことを理解しないまま、感じ取っていたのです。内供の考えはこうでした。自分が幸せなら、まわりの人も幸せなはずだ。しかし、そうではありませんでした。

(つづく) 

中学生のときに読んで感じた「いやーな感じ」を思い出しました。それはさておき、週末をエンジョイしましょう!

Enjoy yourself !

  

 

【鼻 最終話】 

 

内供は日に日に不愉快になっていきました。かつては顎にまで届いていた鼻が今では短く、自然になっていました。

しかし、以前より笑われていることに内供は気づきました。内供は若い小僧に怒鳴りつけるようになりました。

「そんなところにつっ立っていないで。掃除が行き届いてないではないか!」

「寝る時間があったら、経文を読みなさい!」

 

内供は近くにいる人なら誰にでも腹を立てました。鼻を短くするのを手伝ってくれた小僧にさえ腹を立てていました。これではあんまりです。内供の評判は悪くなりました。

「お釈迦様の罰が当たるだろう」

 

自分の話をしているだけでも、内供はおもしろくありませんでした。いたずら好きの若い小僧には特に腹を立てました。

 

ある日、内供は犬がうるさく吠えているのを聞きました。どうしたことかと外に出てみると、小僧が長い木の棒をやせた犬に向けて振り回していました。小僧はこんなことを言っていました。

「鼻をたたいてやろうか。鼻をたたかれないようにな!」

内供は小僧から棒を取り上げ、頭を強くたたきました。小僧は泣きながら言いました。

「痛い! ごめんなさい!」

 

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内供はたいそう怒っていました。その木の棒は、かつて小僧たちが内供の鼻を支えるために使っていた板だったからです。

 

この件があってから、誰も内供に話しかける者はいなくなりました。すべては長い鼻を短くしたところから始まりました。

 

今となっては、内供は自分の鼻が気に入らなくなっていました。前の鼻をなつかしく思う日が来ようとは思ってもみませんでした。

 

風の強いある晩のこと、塔にある風鐸(ふうたく)の音がうるさくて内供の寝床まではっきり聞こえてきました。年を取ると、物音がしたり、布団が冷たかったりすると寝つけないものです。内供は眠れませんでした。

 

すると急に鼻がかゆくなりました。内供は鼻に手をやりました。少しぬれていました。少し大きいようでした。熱を持っているようでもありました。内供は思いました。

「鼻を短くするのに無理をしすぎたのかもしれない。病気になったにちがいない」

内供は仏壇に花を供えるように、鼻をやさしくなでました。

 

翌朝、いつものように早く起きると、寺の庭が一面金色になっていました。昨夜のうちに葉がすべて落ちたのでした。寺の屋根にある九つの輪は、朝日を浴びて明るく輝いていました。

 

突然、しばらく忘れかけていた感覚がよみがえってきました。

「これはいったい…」

内供はあわてて鼻を触ってみました。昨日とは違いました。もう短くないのです。鼻はかつてのように顎まで届いていました。鼻の大きさは元に戻ったのです。鼻が短くなったときと全く同じように、内供は自由になったと感じました。 

 

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「これでもう誰にも笑われないはずだ」

内供は独り言をいいました。長い鼻は朝の秋風にそっと揺れました。

(おわり)

 

うーん。中学生のときは「こんな終わり方いやだ!」と思ったものでしたが…。ま、よしとしましょうか。大人になるってこういうこと!?