英検1級・TOEIC900点からのNHK語学

英語講師です。通訳案内士試験合格しました。

 エンジョイ・シンプル・イングリッシュ日本語訳『 山月記』第1話

 

エンジョイ・シンプル・イングリッシュ

中島敦『山月記』第1話 

 

 

 

李徴は隴西の出身で、理知的で才能のある男だった。

 

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若くして難関といわれる科挙の試験に合格し、政府の役人となった。

その後、江南の地に赴き、軍部と刑部の長になった。しかし、李徴は自尊心が高すぎたため、その職を全うできなかった。自分にはもっとよい仕事があると思ったのだ。

 

すぐに李徴は職を辞し、故郷に戻った。そこでほとんどすべての交友を絶ち、何百年も人々の記憶に残るような詩を書こうと試みた。李徴は、有名な詩人として歴史に名を残したかったのだ。その方が、位の低い役人として尊敬できない上司の言いなりになるよりはるかによいと思っていた。

 

しかしながら、高名な詩人になることは容易ではなかった。李徴は日ごとに貧しくなっていった。体はやせ細り、ほお骨はとび出し、目はぎらぎらとあやしく光っていた。

かつては美しい若者であったのだが、今では見る影もなかった。

 

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もはや李徴は貧しい暮らしを続けることができなくなり、数年後、家族のためによりよい暮らしを求めて東部に戻った。

 

そうした理由は、自分でも高名な詩人になれると信じられなくなったためだった。かつてともに仕事をしていた仲間たちは、位の高い役人になっていた。

そのことが、尊敬できない者の下で働く李徴の心をどれほど傷つけたか想像に難くない。李徴は落ち込み、何をしても心は晴れなかった。そして気持ちの制御が効かなくなった。

 

1年後、ついに李徴は発狂した。夜中に突然目を覚まし、何か叫びながら暗闇の中に走って行った。その後、二度と戻ることはなかった。

 

翌年、袁さんという男が、皇帝の勅命を受け、家来を引き連れ旅をしていた。ある晩、一行は一泊して休みをとり、翌朝早く目覚めた。まだ外は暗かった。地元の役人が言った。

「この先の道には、人食い虎が出ます。昼の明るいうちに行った方がよいでしょう。待てるのなら、お待ちなさい」

 

しかし袁さんは、

「大丈夫。たくさんの連れの者たちがいますから」

と言い、一行は出発した。

 

袁さんの一行は、明け方のかすかな月明かりの下、旅をつづけた。そのとき、突然、高い茂みの中から虎が飛び出してきた。

 

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虎は袁さんに襲いかかるところだったが、急に茂みの中に戻って行った。

 

人の声がした。

「おお、あぶないところだった」

 

その声は何度もそう言っていた。

 

袁さんはその声に聞き覚えがあった。袁さんは驚いて声を上げた。

「あなたはもしかして、わが友、李徴ではないのか?」

 

 

高校の教科書で読んだときは、「?」って感じでしたが、今読んでみると、深いものがありますね。